医化学教室教室員

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氏  名

  末松 

職  位

      

研究テーマ

 

 

  Gas Biology: ガス分子による生体制御学から医学を考察する

 

ガス状メディエータは細胞膜を他の物質に比べて容易に通過して蛋白質や脂質・糖質・核酸などの他の生体構成成分と結合し、特異的な機能を付与する分子群です。このような分子の代表として大気中の酸素や一酸化窒素(NO)があり、クエン酸回路から生成される二酸化炭素(CO2)、含硫アミノ酸の分解により 生成されるH2Sなどが含まれます。これらの分子は太古の地球大気組成の構成成分であり、もともと細菌はこれらを炭素源として、あるいは生存保証のための警報装置をオン・オフするための情報分子として使用しています。

 

しかしながらガス分子群が実際に生物活性を発揮するメカニズムの包括的な理解は極めて遅れており、生化学の教科書でも、糖、脂質、アミノ酸、核酸のような独立した分子カテゴリーとして扱われてきませんでした。

Gasbiolgy”概念図(クリックで拡大)

私達の研究室では世界に先行して、ヘモグロビンが酸素を運ぶために必要なprotoheme IXという有機分子が分解される際に「排気ガス」として生成されると考えられてきた一酸化炭素(CO)が、血管を拡張して解毒臓器である肝臓の血流を増加させることを10 年前に発見して以来、ガス分子による生体制御学を一貫して研究展開してきました。

 

我々にとっておそらく最も馴染みが深いガス分子である酸素分子の受容と利用の分子機構について、現在4つの酸素センシング機構に注目し、それぞれのグループが精力的に研究展開しています。体内で消費される酸素の95%を消費するミトコンドリアのチトクロム酸化酵素の研究チーム、ストレスと密接に関連する副腎皮質ホルモンをコレステロールへの酸素添加反応で生成し生体制御に寄与する仕組みを解明するチーム、さらに低酸素に対するリスクマネージメントに必要な分子警報システムを最新のコンディショナル遺伝子ターゲティング技術で解明するチーム、さらにhemoglobin allosteryの調節を介した赤血球機能の低酸素応答機構を解明するチームです。 

 

これらの研究を推進するべく、医化学教室は環境情報学部、理工学部との連携の下、最新の網羅的代謝解析技術と細胞機能シミュレーションを組み合わせた学際研究を展開しており、平成14年度COE生命科学領域の「システム生物学による生命機能の理解と制御」の拠点形成事業者として、また平成15年度から開始された文部科学省リーディングプロジェクト「細胞・生体機能シミュレーション」の主要研究拠点として選定されました。

 

ガス分子の生物作用解明には、他の分子カテゴリーにはない難しさがあります。蛋白間相互作用の解析にはY2H systemやアフィニティビーズの応用が可能ですが、ガス分子は自分の大きさの数千・万倍の大きさの生体高分子に部位特異的に結合し、その作用を発揮し、その結合は、ガス濃度や他のガスの存在により左右されるという厄介さがあります。細胞の中にある多数の代謝系のうち、特定のガスの存在でどの系が大きく制御されるかを網羅的に俯瞰することにより、生物学的に意味のあるガスの標的分子=レセプタの候補を探索する手法が極めて有力な戦略になりますが、これまではそのようなことは技術的に不可能でした。

 

細胞内には分子量70−1000の非蛋白性低分子化合物が数百存在します。これらの中には酵素反応の基質、生成物あるいは酵素分子に結合してその活性を調節するいわゆるアロステリックエフェクターが含まれ、細胞や生体の機能制御に極めて重要な役割を果たしています。これらを一斉に定量的に分析する方法を先端生命科学研究所の富田勝所長、曽我朋義助教授のチームが開発しました。このメタボローム解析法は上記の問題を解決する極めて有力な方法であり、その解析データと細胞内代謝シミュレータを組み合わせて、実験データの分析や、次の実験仮説の設定をすることにより未知の制御回路の探索が飛躍的に効率化されつつあります。

 

現在「細胞・生体機能シミュレーション」プロジェクトでは「網羅的代謝計測技術に基づく実証的バイオシミュレーションの開発と応用」という研究テーマで、ガス分子による未知の代謝制御ネットワークの解明を進めています。

 

一見これまで代謝経路の末席に位置付けられ、見過ごされてきたガス分子の生成・受容系と他の代謝経路とのリンクはいわゆる複雑系を構成していること、さらにガス分子自身の検出、定量が困難であったため、ともすればこれまでの生物学では実験系の単純化のために無視され切り捨てられてきた分野でした。これらの困難を最新のバイオイメージング技術と網羅的代謝計測技術により克服して、少量でも強力な生物作用を発揮するガス分子の生体内挙動解析やレセプター検索を徹底的に推進し新しい生体制御の標的分子を探索することが我々の目標です。

 

その成果はすでに救急救命で血液型のクロスマッチを必要しない人工血液の開発や、酸素をたくさん末梢に送り、血流を増加させる能力のある修飾ヘモグロビンの開発研究などに応用されつつあります。現在医化学教室は、医学部内の臨床教室の大学院生のみならず、他学部の修士、博士、あるいは他大学からの国内留学生に来ていただき、酸素代謝を他の基幹代謝経路をリンクさせる「横糸」として捉え、低酸素ストレスや循環障害の病態生化学の包括的な研究展開を目指しています。萌芽的領域で国内外でまだ研究者数はわずかですが、興味をお持ちの方はぜひ門を叩いてみてください。

 

 

 

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